由良高リレー21

侮るような南島の言葉に捨て台詞を残した高遠は、少しばかり上機嫌で由良間の後を追った。
面倒な男ではあったが、あそこまで由良間に牽制をされれば、今後高遠に近づいてくることは少なくなるだろう。ジャミングの機械を見つけることは叶わず、又メイドたちの姿も見かけなかったので電話を借りることも出来なかった。その為この場から早々に立ち去ることは出来ないかもしれないが、今はそれだけで十分だった。
気弱なマネージャーの仮面は時として行動を阻害する。由良間が居ない場所であれば、まるで売女のように甘い言葉で簡単に体を許す等という勘違い……思いあがった侮辱に対して、身の程を思い知らせることが出来るのだが、そのような事をしている姿を万が一にでも彼に見られかねないことは避けなければならない。
男の言葉は何一つ高遠の心に響くことは無かった。いささかナルシズムの気がある、由良間よりも自分の方が高遠の為になるなんて一切根拠のない言葉は、高遠への愛情やら思いよりもむしろ由良間への強い敵愾心を感じさせた。
「随分と仲が良いみたいだなお前たち」
後を追ってきた高遠を軽く振り返り、由良間は口の端を上げた。
瞳にはやや険があり、不機嫌さを纏っている。
「仲が良いだなんて……そんなの誤解です」
揶揄っているのだろうか、そう思うもそれにしては普段の彼とは違い苛立ちの色が濃い。
「信じてください、由良間さん。僕はあの人に揶揄われていただけなんです……あの人はどうやら僕らの関係を疑っているみたいで……」
疑っていると言うよりも確信を持ち、又由良間の過去も知っているのだろう。息子を自称しながら飄々とその事を高遠に口にする様子は余りに不用心であった。
あの男自体は、そう警戒するに値する男ではないのかもしれない。ふと高遠はそう感じた。
「あっあの、どうして彼はこのキャンバスを持っていたのでしょうか」
ナイフでボロボロになったキャンバスは、もはやただの木枠に布が巻き付いているだけの物とも言える。折角の遺産などと言っていたが、いつ南島はこの絵が由良間に与えられた遺産だと気づいたのだろう。弁護士に渡された時には包の中に仕舞われていた物で、それを開いた時は部屋の中には二人しかいなかった。
「さぁね、お前が出て行ってから部屋の中にゴミがあるのも嫌で廊下に出したからよ、それを拾いでもしたんじゃねぇか?」
最早彼にとって遺産等興味の対象ではないのだろう。高遠は胸ポケットにしまった鍵を軽く押さえた。あの男は「宝探し」をしているのかと尋ねてきた。ただ遺産を受け取り、手続きを終えた由良間は弁護士に他のことに対して聞くことも無くただ部屋の中にいた。
高遠にしてもメイドに救急箱を返したり、南島に「絡まれる」以外には何もなかった。果たして何ゆえに南島は「宝探し」などと口にしたのだろか。
まさか鍵の事を知っていた?同じ部屋にいた由良間でさえも、高遠が鍵を隠し持っていることには気づいていないだろう。もし鍵がキャンバスに隠されていたと知っていたとしても、それを誰が持っているかまでは知らないはずだ。例え盗聴器の類を部屋に仕掛けていたとしても、いやしていれば尚更宝探し等と言う発想に至るはずがない。
南島に鍵の存在を伝えた相手がいるのかもしれない。だとすれば、二人が警戒する相手はその謎の人物になるだろう。
「どうしてあの人に自称息子だなんて言ったんですか」
「実際今は自称だろうが。まぁ動揺でもすりゃぁ可愛げがあっただろうに、それも無いしよ……嫌な奴だ」
憎々し気に言い放つ由良間は、はっきりと南島への敵意を口にした。気分屋であるが同時に他人への興味が薄い由良間にしては珍しい。気炎を放つかのような口調に、高遠は目を瞬かせた。
「由良間さんはあの人のこと嫌いなんですか?」
その問いに、由良間は立ち止まり高遠を見下ろした。その目には何らかの感情を込められているようなのだが、それがなんであるのか高遠にはわからなかった。その思いを押し込める様にして瞳が細められる。
「あいつは始めから胡散臭かったからな。愛想笑いが酷すぎる。口角と一緒に目の下の筋肉まで動いていた……最初はよただ単に遺産のことで警戒しているのかと思ってたが……」
「よくお気づかれましたね」
ほぅっと感心の声を出すと、由良間は心外だと言わんばかりに声を上げた。
「お前俺の事なんだと思ってるの?スタンダップマジシャンだぞ?人の反応に鈍くってどうするんだよ」
そうは言うが、舞台の上の時とそれ以外では由良間は人の感情にとても鈍い。高遠の真実にも気付かず、哀れな道化のようなありさまを見せている。
「やっぱり由良間さんは凄いですね!」
笑って言えば、由良間はすぐに機嫌を直すだろう。高遠の褒め言葉はいつだって彼の機嫌を取り戻すものだった。内心の侮蔑を隠しながら、馬鹿で哀れなこの男が愚かにも騙される姿に高遠は深い満足を覚えていた。
本心ではない褒め言葉を口にして、由良間の反応を待っていると、彼は小さく目と唇を弧の形にして笑った。
「ああ言う笑顔には見慣れているからな、なんせ毎日見ているからよ」
その笑顔を見た時、高遠はふと不思議な気持ちを感じていた。胸をつくような痛み……その理由がわからず、しかし何故か酷く由良間が遠く感じられた。

  • 最終更新:2016-10-17 15:22:04

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